人が会話をするとき、常識的に従っている原理。
量について
- 必要なことを言え
- 必要以上のことを言うな(いらんこと言うな)
質について(本当のことを言え)
- ウソと思ったら言うな
- 根拠のないことを言うな(推測を事実かのように言ってはいけない)
関連性について
- 関係ないことを言うな
言い方について(はっきり言え)
- わかりにくい言い方をするな
- あいまいさを避けよ
- 簡潔に言え
- 順番に言え
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Grice, H. P. (1975). Logic and Conversation. In P. Cole, & J. L. Morgan. (Eds.), Syntax and Semantics, Vol. 3, Speech Acts (pp. 41-58). New York Academic Press.
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常識的な人はこれに従っていることを前提として、話をし、相手の話を聞く。しかし、何らかの理由で常識のない人は、こうしたことを前提とせず、言いたいことを言うことがある。結果として、常識的にこれらの前提をふまえて話を聞こうとする人は、誤解をしてしまう。
このグライスの協調の原理の論文を読んだ時、いかにもごもっともではあるが、まったくもって常識的なことで、反論の余地がなく、あえてこんなことを論文にしてどうするのかな、と思った。
しかし、現実問題として、こうした常識を前提とせずに、発言をする人がいて、それが原因で「誤解」が起きる。「言葉」として何が書いてあるか、ということが問題ではなくて、言葉を使う前提としてあるべき協調の原理が守られているかどうかが問題だ。
もちろん、グライスがこの論文を書く前から、協調の原理はあった。常識として。そして、常識に従って言葉を使っている人にとっては、何も問題にならない。
この問題は、Speech Actの問題に関係している。(Griceのこの論文が収録されている本のタイトルがまさにSpeech Acts)
Speech Actの問題も、常識の世界に住んでいる人にとっては、あまりにも常識的すぎて、当然のこと。しかし、それが当然ではない人にとっては、困難な問題となる。
言葉の意味と意図の関係。言葉の文字通りの意味とその言葉を使った人の意図とは必ずしも一致しない、ということ。
A: Can you pass me the salt?
B: Yes.
A: ….
「Yes」と答えただけで何もしないBさん。
Bさんは、Aさんの疑問文の意味は分かっているが、意図を理解できないので、答えただけで何もしない、という話。なぜAさんがその質問をその場でするのか、というAさんの「気持ち」にBさんは気づけない、ということ。そのことをBさんに指摘したら、おそらくBさんは、「それならなぜPass me the salt.といわないのか、そのほうが正確ではないか」というでしょう。しかし、そういわれても、世の中の人はそうは言わない。そうは言わないのが世の中の常識だから。
そして、この話は、Leech のPinciples of Pragmaticsや、Brown and LevinsonのPolitenessへとつながっていく。